大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(特わ)3699号 判決

本店所在地

東京都千代田区九段北四丁目二番二号

小林建設株式会社

右代表者代表取締役

小林博之

本籍

東京都大田区羽田四丁目二二番地の三

住居

同都練馬区石神井町一丁目一七番六号

会社役員

小林博之

昭和一六年九月九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人小林建設株式会社を罰金三、五〇〇万円に、

被告人小林博之を懲役一年六月に

それぞれ処する。

被告人小林博之に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人小林建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都千代田区九段北四丁目二番二号(昭和五五年五月二四日以前は同区神田三崎町二丁目二〇番一号)に本店を置き、道路建設工事及び土木工事の請負業等を目的とする資本金六〇〇万円の株式会社であり、被告人小林博之は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人小林は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外し、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四、三一三万一、九六三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年一二月一日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七、六三五万二、三九八円でこれに対する法人税額が二、八六六万九、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第九一号の1はその写)を郵便により提出し(通信日付印は昭和五四年一一月三〇日)もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五、五三七万九、三〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二、六七〇万九、五〇〇円を免れ

第二  昭和五四年一〇月一日から昭和五五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、五四七万九、三〇三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年一二月二日、前同所所在の麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七、〇三一万二、三八四円でこれに対する法人税額が二、六八二万七、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2はその写)を郵便により提出し(通信日付印は昭和五五年一二月一日)、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、二一九万七、七〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額五三七万〇〇〇〇円を免れ、

第三  昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億八、五九四万八、三一九円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年一二月二日、前記麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億二、二七七万五、〇二二円でこれに対する法人税額が四、九〇五万一、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を郵便により提出し(通信日付印は和昭和五六年一一月三〇日)、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億五、九五八万二、二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一億一、〇五三万〇五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人小林の当公判廷における供述

一  被告人小林の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の被告人小林に対する各質問てん末書

一  鈴木方一及び田口善助の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の鈴木方一(三通)、豊田侑幸(二通)、川原康郷(二通)、小松広治、大楠久人、鈴木のぶ、秋田谷与志広、森口じつ代、難波晴美、田口善助及び小林千恵子に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の売上、材料仕入高、賃金給料、労務費、法定福利費、福利厚生費、外注加工費、旅費交通費、通信費、交際費、修繕費、水道光熱費、消耗品費(売上原価)、運賃、仮設経費、機械等経費、労務管理費、雑費、期首仕掛品棚卸高、期末仕掛品棚卸高、役員賞与、結与手当、支払手数料、諸会費、有価証券売買損益、受取利息、受取配当金、雑収入、雑損失、特別利益(価格変動準備金積立額戻入益)、価格変動準備金繰入、交際費損金不算入額、役員賞与損金不算入額、雑収入計上もれ、前期否認工事原価認容及び事業税認定損に関する各調査書

一  麹町税務署長作成の証明書

一  東京法務局登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書写二袋(昭和五八年押第九一号の1及び2)及び法人税確定申告書一袋(前同号の3)

(法令の適用)

被告人小林の判示第一及び第二の各所為は、いずれも、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、同第三の所為は法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

更に、被告人小林の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示第一及び第二の各罪につき、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により、右改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられ、同第三の罪につき、法人税法一六四条一項により、同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪所定の罰金を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金三、五〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、判示のとおり、高速道路等の床版工事を業とする被告会社の代表取締役である被告人小林において、三事業年度にわたり、合計三億四、五〇〇万円余の所得を秘匿し、一億四、二〇〇万円余の法人税を免れたという事案である。右各金額はいずれも高額であり、その所得秘匿率は約五六パーセント、税ほ脱率は約五七パーセントに及んでいる。被告人小林は、本件各犯行の動機として、不況時に備えて利益を会社内部に蓄積しておきたかったこと及びここ数年来糖尿病を患い、健康がすぐれなかったため、将来に備えて利益を留保しておきたかった旨述べるが、いずれも本件脱税を正当化する理由とはならず、その他特に斟酌すべき動機は見い出せない。また、本件犯行の態様は、売上げを除外し、架空の経費を計上するというものであり、秘匿所得の一部が被告人小林のために費消されていることも見逃せず、犯情も芳しくない。これらの事情を考慮すると、被告人小林の本件刑事責任は決して軽いとはいえないのである。

しかし被告人小林も現在では自己の軽率な行為を反省し、二度とかかる不祥事を起こさない旨述べ、修正申告を行ったうえ、これに伴う諸税も完納しており、また、本件売上げの除外については、これを翌期に繰り延べるつもりであった部分も相当にあるので、その他被告人小林の年齢、家族関係、健康状態等の事情を考慮し、主文掲記の刑を量定した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田敏章)

別紙(三)

修正損益計算書

小林建設株式会社

自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四)

税額計算書

小林建設株式会社

(1) 自 昭和53年10月1日

至 昭和54年9月30日

〈省略〉

小林建設株式会社

(2) 自 昭和54年10月1日

至 昭和55年9月30日

〈省略〉

課税留保金額に対する税額695,900円を含む。

小林建設株式会社

(3) 自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例